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「高次脳機能障害(3)日常、社会生活に制約」(2009年5月掲載)

下村 辰雄(リハビリテーション科):秋田魁新報 2009年5月4日掲載

高次脳機能障害とは、脳機能のうち、運動や感覚機能では説明できないが、言語、記憶、注意などの認知機能に障害を来した状態だ。厚生労働省が示した高次脳機能障害の基準では、(1)脳の器質的病変となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている(2)現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である、と記載されている。失語が除かれているのは、以前から身体障害として身体障害者手帳に認定されてきたためで、おおむね認知機能全般が網羅されている。

高次脳機能障害患者では、注意障害や記憶障害、遂行機能障害、自己意識性の障害(病識低下)のため、周囲の環境を適切に認知・制御したり、しばしば、社会生活をスムーズに送ることが困難となる。これら障害の具体的症状は以下の通りである。

注意障害

目を覚まし、注意を向け、集中し、それを維持することが持続できない状態。注意に障害があると「集中せず落ち着かない」「すぐ他のことに気を取られ集中できない」「同時にいくつかのことをできない」「一つの物事に固執して注意を移せない」「ミスが多く効率が上がらない」などの問題が生ずる。

記憶障害

新しい情報を覚え込み、必要なときに引き出すことができない状態。病前の記憶は比較的保たれているが、病気の直前直後のことが思い出せず、病後の新しい記億を保つことがなかなかできない。「その日何を食べたか忘れている」「スタッフの名前や顔を覚えていない」「物の置き場所を忘れる」「同じことを何度も聞いたり話したりする」「当日の予定を忘れている」などの症状が生じる。

遂行機能障害

物事を計画し、それを実際に行動に移す過程の障害。論理的に考えたり、問題を解決したり、推察することができない状態。「自ら行動を始められない」「一つ一つ指示しなければ行動できない」「手順が分からない」「効率よく物事を進められない」「物事を最後までやり遂げられない」「周囲を気にせず勝手にやってしまう」などの症状がある。

自己意識性の障害(現実感の欠如)

自己の障害に対する意識に問題がみられる状態。自分自身を客観的にとらえることができず、むしろ過大評価して何でもできると思うなど、客観性や内省に欠ける。病識欠落がこれに相当する。

秋田魁新報 2009年5月4日

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