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「認知症リハビリ 包括的にアプローチ」(2008年10月掲載)

下村 辰雄(リハビリテーション科)/秋田魁新報 2008年10月12日掲載

認知症患者に対するリハビリテーションの目的は機能の回復が中心になる。ただし、それがすべてではなく、自らの身体的、心理的、社会的な機能を最大限に発揮し、認知症でありながらも可能な限り、その人らしい生活を送ることができるように援助するのも大事な目的となる。そのため、患者を支える家族や介護者の指導、心理的サポートも重要になる。

症状の程度を評価する観点には認知機能、行動障害・精神症状・感情障害、歩行や食事といった日々の暮らしに必要な日常生活能力のほか、家族にどれぐらい負担が掛かるか、介護資源をどれだけ利用できるかなどがある。認知症患者のリハビリは、まずはいずれかの点の改善、あるいは悪化の抑制を目標に行われるべきだろう。その際には何を目標にしているのかを常に考慮しながら、多様な手法を駆使した包括的なアプローチを心掛ける必要がある。

認知症のリハビリとして最も普及しているのが集団療法。そのうち現実見当識訓練や回想法、音楽療法などが比較的体系化された訓練法として知られ、これらを単独で用いるより併用した方が効果が大きいとされる。

現実見当識訓練とは、その日が何月何日かや今いる場所が分からないといった見当識障害を改善し、現実への認識を深める訓練。カレンダーや時計を利用する。これによって、誤った認識に基づいて生じる行動障害や感情障害の改善が図られる。

回想法は比較的保たれやすい昔の記憶を活用する。患者から過去の記憶を引き出し、感情を交えながらその記憶について語る機会を設ける。記憶の定着と同時に自発性の低下や会話の減少を防ぎ、残された能力を高める。これにより介護者に好意的に接するようになり、介護や治療の一助となる場合も多い。一般的には週一回以上集まり、それぞれの昔話などを語り合う。その際は過去に使った物品、当時の写真やビデオ、親しんでいた音楽も利用する。

音楽療法は演奏に耳を傾けるだけでなく、伴奏に合わせて歌ったり楽器の演奏を行ったりする。音楽が情動反応や体の動きを誘発し、さらに参加者間のコミュニケーションを促すことによって身体機能の維持、情動の安定、記憶の喚起などにつながると考えられている。

当センターでは、これらを病棟でのレクリエーション、作業療法、心理療法などに取り入れた包括的なリハビリを実施。精神機能や日常生活能力の低下の予防などに努めている。

秋田魁新報 2008年10月12日

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