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「認知症患者の家族 病気の正しい理解を」(2009年1月掲載)

下村 辰雄(リハビリテーション科):秋田魁新報 2009年1月5日掲載

認知症患者を抱えた家族の心理状況は複雑である。一緒に暮らしてきた家族の一員が物忘れの進行などとともに自立した生活が困難になる姿を目の当たりにし、認知症と診断されたときの悲しみ、苦痛は計り知れない。実際、「目の前が真っ暗になった」「進行したらどうなるのか」など落胆や不安の声が聞かれる。

認知症患者に対するリハビリテーションの目的は病気を持ちつつも生活の質をできるだけ保つことにある。そのためには患者の認知機能面だけでなく、家族ら介護者に対する働き掛けなども含めた多岐にわたるアプローチが必要となる。

患者には記憶障害や判断力の低下が生じ、自分が病気にかかっているという自覚も少ない。自らの症状を認識し、その回復を目指した学習を主体的に行うのは難しい。そこで、家族ら介護者への教育・指導が重要になる。認知症の正しい知識、適切な介護技術、望まれる生活環境、利用できる福祉制度や社会資源について正しく理解することは患者の心身の安定だけでなく、介護者の負担軽減にもつながる。

医師側は病気の具合や将来の見通しに関する説明はもちろん、不眠、興奮といった精神症状、徘徊などの行動障害に対する具体的な対処法、介護法などについて十分な指導を行わなければならない。

この際、留意しなくてはならないのが家族ら介護者に多大な精神的・肉体的負担が強いられているケースが多いことだ。具体的には慣れない介護に伴う困惑や犠牲になっているという感覚、経済的困窮、自らの健康への影響などで、生活が大きく変化している場合も多い。

介護者を教育・指導する際は、まず介護者の心理状況を把握することが重要だ。不安や悲嘆、怒り、孤独感、自責の念など、介護者それぞれがどんな思いを抱いているかをつかみ、適切なケアを行うことが医師側には求められる。また、このような介入は早期から行うことが大切である。

欧米では介護から派生する影響を「介護負担」という概念でとらえ、その評価法などの研究が進んでいる。日本でも介護負担の検討が行われており、負担感の度合いは、患者の年齢、性別、認知症を招いた疾患とは関連がなく、患者の日常生活活動に生じた障害の程度や精神症状が重いほど大きいという結果も出ている。

秋田魁新報 2009年1月5日

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