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「生きているのが嫌になりますか?」という質問について(2010年3月掲載)

2010年3月

長いタイトルになりました。今回は自殺に対応するための技術について少し紹介します。日本も落ち目になったのか、暗く疲れる話題が多い今日この頃です。「うつ」の問題が社会的に大きく取り上げられることも増えたように思います。1年間に3万人の自殺者がでる現状も最近は当たり前のようになってしまいました。

さて、自殺に関しては、あまり、それへの対応技術が知られていません。しかし、このような世相ですから、少なくとも、自殺の危険に対応する最低限の知識は持っておいたほうがよいでしょう。近くに「自殺の危険があるのでは?」という人が出た場合は、その懸念が現実性のあるものか否かを知ることはとても大切なことだと思います。その場合にはどうすればよいでしょう。何か魔法のような特殊技術はあるのでしょうか。

答えは簡単です。魔法のような特殊技術はありません。しかし、極めて有効な技術があります。要するに、本人に直接聞けばよいのです。ここで強調したいのですが、常識の嘘というか、誤解がかなり広くあります。それは「自殺したいかと質問することが自殺を誘発するのではないか」という誤解です。これは事実ではありません。それどころか、上手に聞いてあげれば、本人の苦しみが和らぎ、少し、自殺の危険性が減ることもあり得ます。

ただし、聞く場合は常識を働かせる必要があります。いろいろな人たちが集まっている状況で、大声で「あなたは死んでしまいたいですか」と質問する人は多分いないと思います。聞く方が多少気後れするように、聞かれる人も「どこまでこの人に打ち明けてもよいのだろうか」と悩んでいるかもしれません。静かな落ち着いた部屋で、1対1か、こちらはせいぜい2名とし、聞かれる人が気後れしないですむように環境を設定すべきです。

また、露骨に「自殺したいか」と聞くのではなく、「現在、苦しい状況か」、「生きているのがつらくならないか」、「生きているのが嫌にならないか」のような順で少しずつ、相手が答えやすい内容で聞いてあげるべきでしょう。「生きているのが嫌になる」という答えはそのまま、自殺したいという気持ちの表現と理解すべきでしょう。このような答えを聞いたときには、もし出来るならば、「慌てる必要はありません。少し考えてみましょう。ちょっと待ってください」と答えてあげたほうがよいことが多いと思います。

そして、一人で抱え込まないで誰かと相談し、何らかの行動を起こすことが大事でしょう。もし、自殺が起きれば、本人の大事な人生が失われるだけではなく、周りの多くの人たちも傷つきます。自殺は防がなければなりません。自分に出来ることへ、小さな一歩を踏み出しましょう。

なお、念のために書いておきますが、本人へ「自殺したいか」を聞くことは自殺を誘発するおそれは普通ありませんが、誰かが自殺したというニュースを、自殺したいと思っている人が聞くと自殺を誘発する危険があります。誰かが自殺したという話題を気軽に皆に触れ回るのは控えるほうがよいと思います。

図:「生きているのが嫌になりますか?」という質問について

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