患者の皆様へ


patient

「気分のよくなる」病気(2012年12月掲載)

今回のお話は、以前に書いた「元気が出すぎる病気」の続編です。精神科の病気の中には、「気分のよくなる」病気があります。普通は、病気の時は苦しく不快ですので、気分がよくなる病気など想像しにくいと思います。しかし、あるのです。躁病(そうびょう)と呼びます。躁病は脳の中の活動エネルギー調節装置が故障してエネルギー出力が上がりすぎてしまうような病気です。活動エネルギーが病的に増大しすぎるので、ご本人は気分がよくても、周囲から見ると、軽はずみだったり、気が強くなりすぎて不要のケンカを引き起こしたりして迷惑に感じられる病状となります。気が大きくなりすぎて高すぎる買い物をしたり、失敗するのが当然の事業を始めようとして大きな借金を作ったりします。

この病状は、通常、数ヶ月でおさまりますので、治ってから借金の大きさや、躁病の最中に失ってしまった社会的信用に気づき、大いに苦しんだりします。一時的に体力も増したように錯覚し、数時間しか眠らなくても平気で活動を続け、同居の家族が疲れ果てることもしばしばです。また、この病気は、逆にエネルギーが落ちてしまううつ病と交代して出現することも多いのです。躁病の次にうつ病が出ると、躁病の最中の多くの失敗について、うつ病の期間中、よりひどく悩んだりもします。

それでは、どうすれば良いのでしょう。薬はないのでしょうか。薬はあります。気分安定薬と言われる薬、それと同様の効果のある薬がすでに開発されています。炭酸リチウム、バルプロ酸、非定型抗精神病薬などと呼ばれる薬です。これらの薬を服用することにより、軽症の人なら、すみやかに脳内の活動エネルギー水準が正常にもどり、その人らしさを取り戻すことが可能です。うまく組み合わせれば、逆のうつ病症状が出現しないように防止することも可能となってきました。つまり、積極的に治療可能な時代になったということです。

皆さんのご家族、周囲の方にこのような症状の人はいませんか?もし、心当たりの人がいれば、上手に、ご本人の気持ちを尊重しながら、病院で相談することをお勧めしてもいいかもしれません。ご本人は気分がよいので病気という実感が無いことが多いのでなかなか納得してもらえないかもしれませんが。

なお、この病気は普通の人柄の人がある時点で変わってしまう病状です。人間、もともと元気な人はいます。そのような人に「病気では」と話しかけ、トラブルにならないように気をつけた上でご検討下さい。

ページトップへ戻る