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《ろう教師の誕生》日本のろう教育の現状は?(2001年10月掲載)

中澤 操(リハビリテーション科):秋田魁新報 2001年10月7日掲載

6年前スウエーデンに一週間滞在したとき、友人の医師B先生が空港に車で迎えてくれて、病院と保育所の見学や、自宅の夕食への招待で多くの友人たちを紹介してくれた。さて、B先生はろうである。スウエーデン語と英語(いずれも音声言語)、スウエーデン手話を話す。私とは英語で会話する。生まれつき右耳は殆どきこえず左耳も重い難聴だ。現在は医師として診察・研究・講義を受け持ち税金を払っている。この滞在で出会った人たちはきこえない人が多かったがコミュニケーションには困らなかった。英語やスウエーデン語、スウエーデン手話を駆使し、英語しかできない私には誰かが通訳してくれた。私はすべてに圧倒されて帰国したのである。

音声言語(スウエーデン語や日本語)と手話言語とは全く異なる言語である。スウエーデンでは20年前に手話もスウエーデン語と同じように公用語(国語)と認められた。当時の文部大臣は全盲の人であった。きこえない子どもに「きこえる人のように話す」ことを強要せず、手話習得で言語概念を形成し、その基盤のもとにスウエーデン語の読み書き能力をも習得することにろう学校が大きな役割を果たしてきている。さらに、きこえる社会の中で生きていく上で自信をなくさぬように、自己肯定感を育てることもろう学校でこそ可能になる。自分の将来の姿(ロールモデル)としてのろうの大人の存在は必須であり、スウエーデンのろう学校でろう教師ときこえる教師の比率が半々であることもそのためである。

日本ではろう教師の数は少なく、秋田にはまだいない。しかし今回、初めて秋田県でろう教師を募集したところ、難関を突破してろう学生が合格した。素晴らしい快挙であり嬉しいことだ。

ろう教師がいれば、こどもの手話を読み取ることもできるので(きこえる人間には読み取れないことも多い)、コミュニケーションが楽しくなるだろう。また、ろう教師自身がロールモデルとなり子どもたちの心理的安定に大きな効果をもたらすだろう。日本人学校で日本人の教師にしかできないことがあるように、ろうの人にしかできないことがろう学校にはある。

ろう教師の誕生はまだ小さな苗木だ。時を経て大きな木に育つように私も見守っていきたいと思う。

秋田魁新報 2001年10月7日

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