患者の皆様へ


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認知症の介護の「心構え」(2018年12月掲載)

1年以上、間が空きました。皆様、お元気でしたでしょうか。今日は認知症のご家族を介護している方へのメッセージです。

超高齢社会と言われてから、大分時間が経ちました。私の周りでも認知症の親御さんを介護している知人が沢山います。診療上でも、自宅で親御さんの介護をしている方、夫あるいは妻の介護をしている方、あるいは認知症の方の息子さんの奥さんなどとよくお会いします。診察時、自宅で同居しながら介護をしている方が同伴していらっしゃる事も多く経験します。その際に、私が介護を担当しているご家族へ強調している事を是非お伝えしたいと思います。

それは「完全な介護を目指してはいけない」という事です。特に親御さんを介護している子どもさん、姑、舅を介護しているお嫁さんの立場の方達にそのことを伝えたいと思います。子どもさん、お嫁さん(日本社会ではお婿さんの立場の人の介護は極めて少ないと思います)の立場の方に接すると、いつも感じるのですが、疲れ果てている方が非常に多い印象です。そのような方と接した場合、いつも、私が強調するのは、介護というのは介護される方とする方の両方がひとつのセットになり、成立しているという事です。言い方を変えると、介護をする立場の方が倒れてしまえば、全体が崩壊してしまうという事です。

だから、客観的立場からみれば、介護者がある程度、余力を持った生活を確保する事が家族全体のためになるということになります。

ところが、介護している立場の方は自分自身の事は忘れて頑張っている様子です。この理由について聞くと、以下の2点になるようです。それは不全感と罪悪感です。他人からは十分に頑張っているように見える場合でも、介護当事者の方は子どもなりお嫁さんなりの責任を強く感じて、自分は十分に責任を果たしているのかと過剰に反省したり、もっと努力しなければ申し訳ないのではないかと自分を責める傾向があるようです。これは不健全な状況です。介護者が限界を超えて頑張れば、始めにお話したように全てが駄目になる日がやってきます。

ですから、このような時には、私は次のように助言するようにしています。

「介護者の健康が保てるから介護は続けられるのです。完全な介護は目指さないで下さい。最低、月に一日、いや半日でもいいから、気晴らしのために自由な立場で外出できるようにして下さい。(女性なら)親しい友人と一緒にお店でケーキを食べながら、おしゃべりをするのが一番いいでしょう。少し、自分でも手を抜いているかなと思うくらいで丁度いいのです。」

最後に強調します。介護はマラソンです。全力疾走では倒れてしまいます。少し余力のある状態で丁度よいのです。完全な介護ではなく、長持ちする介護のペースを保つようにして下さい。介護されている方も介護している方も、両方の人生とも大事です。介護は、無理なく出来る程度に留めるよう強くお勧めします。

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