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「せん妄(もう)」って何ですか?(2010年2月掲載)

2010年2月

今回は「せん妄」をご紹介します。「せんもう」と読みます。昔は「譫妄」と書きましたが、漢字が難しいので、今は「せん妄」と書くのが普通です。

これはある特殊な病状を表す言葉です。「意識障害」の一種です。人間は起きているときは意識が清明であり、眠ると意識が下がります。周囲を感知する力が減り、外からの刺激に反応しなくなります。この意識の低下が病気により生じると「意識障害」と呼びます。頭を打ったり、脳卒中になると「意識障害」を起こすことは誰でも納得できます。しかし、この「意識障害」は脳に直接に病気が起きなくとも生じることが沢山あるのです。お年寄りなどでは、身体の水分や「電解質」という物質のバランスが崩れただけでも比較的容易に「意識障害」を起こします。

話をもう一歩進めます。他にも様々な原因でこの「意識障害」が生じ得ますが、意識が病的に低下する場合は通常の眠りでは起こりえない現象を伴ったりします。皆さんがイメージする「意識障害」は、眠っているようでじっとしている。話しかけても答えない。反応がない、というようなイメージだと思います。ところが、病的原因による意識の低下である「意識障害」の時には、もっと複雑な病像になることがあります。それは意識が低下して濁っているのにも関わらず、なにやら興奮して、ありもしない内容を話し続けたり、無い物が見えると訴えたりすることがあるのです。周りの人が話しかけるとトンチンカンですが答えたりします。このような現象を「せん妄」と呼びます。

この「せん妄」は意識が軽く低下したときに心の中のさまざまな要素がでたらめに動き出してしまう現象です。たとえて言うと、脳の障害により、夢と現実がまぜこぜになってしまったようなものです(あくまでたとえです)。「せん妄」は誰でも色々な原因で起こりえます。比較的、皆さんが経験しやすいのは、寝たきりになったお年寄りなどが肺炎を起こしたり、水分や電解質のバランスが崩れた時や、薬物の副作用の時などでしょう。いくつかの原因が複合しており、どれか一つと特定できない場合もあります。このような条件の身内の方が入院した時に、主治医の先生から『「せん妄」が起きています』と言われたときは、今、身体とともに脳のコンディションも悪いのだなとご理解ください。

なお、問いかけへの答えの内容がちぐはぐだったり、ありもしない物が見えると訴えたり、妄想と思えることを話したからといっても別に精神病が合併したわけでなく、意識が濁っているための取り違えが起きているだけです。意識が回復さえすればこのような不思議な現象は消えてなくなるはずです。また、「せん妄」は一定の条件になれば誰にでも起こりうるものです。恥ずかしく思ったり隠す必要があるものでは全くありません。

図:「せん妄(もう)」って何ですか?

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