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「高次脳機能障害(4)順序立てた訓練必要」(2009年6月掲載)

下村 辰雄(リハビリテーション科):秋田魁新報 2009年6月8日掲載

高次脳機能とは、運動や感覚・知覚では説明できない言語・動作・認知にかかわる脳機能全般を指す。その中で、行動の開始、判断、行動の抑制、計画、自己の客観化、情緒、注意、言語表出などのより高次な機能を前頭葉機能と呼ぶ。

前頭葉機能を模式化したものに、ニューヨーク大学医療センターの脳損傷通院プログラムで用いられている「神経心理ピラミッド」がある。前頭葉を基盤とした高次脳機能障害を、底辺から(1)神経疲労(2)抑制困難や無気力(3)注意・集中力(4)情報処理(5)記憶(6)高次遂行機能や論理的思考力(7)自己の気付き、の七つに階層化している。

それぞれが単独に存在しているわけではなく、常に影響を及ぼし合っている。一番底辺にある神経疲労、すなわち精神的な疲労感の存在は、それより上の機能である抑制困難(イライラ感)、無気力(意欲のなさ)、注意・集中力、言語を含めた情報処理能力、さらには記億力にも悪影響を及ぼす。

このピラミッドは前頭葉機能全般を網羅しているだけでなく、高次脳機能障害のリハビリテーションに大きな示唆を与えている。例えば、記億障害のために、新しいことを覚えられなかったり、スケジュールの管理ができない人に対して、私たちは記憶障害への直接的なアプローチに飛び付いてしまい、メモ帳やスケジュール表などの使用を促しがちだ。しかし、極度に疲労を感じていたり、やる気がない、あるいは物事に集中できない人に、いきなり「メモを取ってください」と勧めてもやってくれるはずがない。その場合、まずは起きていられる、長時間座っていることから始め、神経疲労の改善に努める。その後、訓練に対するモチべーションを上げるなど無気力の改善を行う。訓練に取り組んでくれるようになったら、次は集中力を高める、というように、順序立てて訓練を行うことが必要だ。

前頭葉機能の頂点に「自己の気付き」があり、高次脳機能障害者が自身の障害を認識し、病識を獲得する一番の到達点に位置づけられている。しかし、ある日突然、高次脳機能障害になった人がそう簡単に自らを理解し、受け入れることはできない。高次脳機能障害のリハビリテーションにおいては、神経心理ピラミッドを念頭に置きながら、段階的にアプローチすることが必要だ。また、どこに解決のヒントが隠されているか分からないため、多職種による「包括的なリハビリテーション」が必要な場合がある。

秋田魁新報 2009年6月8日

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