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「特発性正常圧水頭症 治療で症状の改善も」(2008年9月掲載)

下村 辰雄(リハビリテーション科):秋田魁新報 2008年9月8日掲載

認知症の原因にはさまざまあり、中には適切な治療を行えば症状の改善が期待できるものもある。その一つが特発性正常圧水頭症。脳に過剰に髄液がたまり流れが悪くなることによって起こり、脳室が広がる。中高年に多く、症状はゆっくり進行する。

比較的軽症の患者では、あることに注意を払い続けたり、次のことに注意を切り替える注意機能に障害が出たり、思考速度・反応速度・作業速度が低下。動物や野菜の名前を一定時間内に素早く挙げるなど、求められる言葉を思い出す語想起能力にも問題が生じる。さらには記憶障害も現れ、重症患者では知的機能が全体的に低下する。

こうした認知症の症状だけでなく、患者には歩行障害も起こる。歩幅が狭くなったり足が上がりにくくなることで歩行速度が遅く、不安定になる。立ち上がったときや方向転換したときに特に不安定になり、転倒しやすい。排尿障害を伴うこともあり、尿意を感じてトイレに行こうとしても我慢できずに漏らしてしまう。

以前に診療した八十代の女性患者は、初めに物忘れや歩行障害が起きた。その後、自発性が低下、尿失禁も見られ、当センターに入院した。検査すると歩行障害として歩幅が狭く、くすみが見られることを確認。動作も緩慢だった。現在の時刻などを把握する見当識や記憶力、注意力、計算力の低下といった認知症の症状も見られた。トイレで用を足すときは一部介助、着替えや入浴、車いすの操作などは全介助が必要だった。磁気共鳴画像装置(MRI)で画像診断を行うと脳室が拡大していた。

特発性正常圧水頭症の治療を行う場合、腰の辺りに少し太い針を刺して髄液を抜くテストをし、症状が改善すれば髄液シャント術と呼ばれる手術の適応になる。脳にたまった過剰な髄液を管を使い腹部など体のほかの部分に流す手術だ。

テストとして、この患者の髄液を三十ミリリットル抜いてみた。すると、一日に1回から2回あった尿失禁が0回から1回に減少。十メートルを歩く試験では27歩から36歩で15秒から20秒かかっていたのが27歩から30歩に歩数が減り、時間も14秒から16秒に短縮された。その結果を受けて髄液シャント術を実施。尿失禁がなくなり、歩行が安定した。トイレや着替え、入浴は一人でできるようになった。認知症の症状も改善された。

このように特発性正常圧水頭症が原因の認知症は改善の可能性がある。症状に気付いたら、ぜひ受診してほしい。

秋田魁新報 2008年9月8日

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