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「夢の薬」の話(2010年1月掲載)

2010年1月

「夢の薬」はあるのでしょうか。何にでもよく効き、副作用が全くない薬があればそれは「夢の薬」になるでしょう。しかし、そのような薬はありません。当たり前の話です。何にでも効く薬があるはずがありません。ここまでは誰でも納得していただけます。ただし、次のところが問題です。副作用が全くない薬で素晴らしい効果がある薬は存在するでしょうか。この点は人により、かなり受けとめかたが違うようです。あるかもしれないと願うのが人情かもしれません。

しかし、これもかなえることが難しい願いだろうと思います。そもそも薬というのは何でしょうか。薬のほとんどは硬く言うと「化学物質」です。身体の中に入ると身体の働きかたに干渉してそれを変えてしまう化学物質を我々人間は薬として利用しているわけです。その場合、薬自体には目的意識などはありませんから、その物質の持つ本来の性質により、自動的にヒトの身体の働きを変えていくわけです。服用する我々にとって、都合のよい方向で身体の働きを変えてくれる物質を我々は薬として利用していることになります。そうすると、本来、薬として用いた物質が服用した時のその人の身体の状態なり、病気の症状なりを我々が望む方向に、常に全ての面で大きく変えてくれる(よく効く)ことを望むのは少し無理があるのではないでしょうか。薬は目的意識などありませんから、それ自体の性質により身体の働きを変えます。そうすると、時々、服用する人間に不都合な変えかたをすることも当然あり得るはずです。「よく効く薬」は身体の働きを大きく変えるわけですから、そうすると、時々、不都合な方向へ大きく変えてしまうこともあるはずです。

くどくどと書いてきましたが、結論はありふれています。私が強調したいのは薬には普通は(我々にとり都合の)よい面と(都合の)悪い面の両方があるだろうということです。そして、よく効く薬は普通、身体の働きを大きく変えるので、副作用も出やすいと警戒すべきだろうということです。最後に興ざめなことを書きますが、やはり「夢の薬」は夢の中にだけ存在するものであり、薬効と副作用の両方を考え合わせて、「もっともましな薬」を利用するしかないのが現実ではないでしょうか。

図:「夢の薬」の話

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